【質問1】ネガティブ思考はいけないこと?ポジティブ思考に変えることはできる?
結論からいうと、ネガティブ思考はいけないことではありません。
大切なのは、ネガティブ思考とポジティブ思考のどちらにも偏らずに物事を見ることができることでしょう。以下にもう少し詳しく説明していきます。
「ネガティブ」、「ポジティブ」という言葉を使う時、心理学的にはやや一般的ではない考え方をすることがあるので、先に触れておきます。
感情を扱う心理学では、例えば怒りや悲しみであっても、その人が“本来感じている”感情であれば、それはポジティブなものとして捉えられます。その核となる感情をしっかり感じきってあげることが、変容の鍵となるためです。こうした核となる感情は、思考や行動とも結びつきが深いと考えられています。
さて、この質問では、一般的に考えられている「前向きでハッピーな思考」としてポジティブという言葉が使われていると解釈して進めていくこととします。
確かに、「物事を良く捉えることこそ素晴らしいこと」「いつも明るい考え方ができる人が魅力的」と思われがちですよね。しかし、本当にそうでしょうか?
どこかしっくりこないのに物事の良い面を見出そうと頑張り過ぎてしまうと、気持ちと思考・行動がどんどんかけ離れてしまい、不安定になってしまいます。また、ポジティブな考え方は、行き過ぎると時に過剰な楽観主義に陥る可能性をも含んでいるでしょう。
大切なのは、ネガティブ思考をしている自分をいったん受け止め、「なぜこんなにもマイナスにばかり考えてしまうのだろう?」と分析をすることです。
そこにはとても大切な、核となる感情が隠れているかもしれない。あるいは、物事のリスクを正確に推し量るヒントが隠れているかもしれない。
その上でどう対処したらいいのかが明確に見えてきたら、それこそが、中身のともなったポジティブ思考といえるでしょう。
ひとりで考えているとどちらかに偏りがちになるのであれば、誰かと話しながら理解を深めていくことも有効です。
ネガティブ思考は決して悪いことではありません。むしろ、ネガティブ思考とポジティブ思考は互いに補完し合う関係であると捉えることに意味があると思われます。
【質問2】苦手な人にはどう対処すれば良いの?
対人関係の悩みはとても身近で、かつ厄介なものですよね。
一度「苦手だな」と思ってしまうと、段々と条件反射的に「嫌な人」と思ってしまうこともあるのではないでしょうか。
対処としては、「その人のどんなところが苦手なの?」と、自分自身に開いてみることでしょう。その結果により、以下の2通りの対処法が浮かんできました。
1:“明らかに迷惑をかけられたのに、相手は全く反省していない”や、“理不尽で根拠のない嫌なことを言われた、された”という事実がある場合
→正直、関わりたくないですね(笑)。できるのであれば、縁を切ってしまっても良いと思います。でもそうはいかないのが現実ですよね。
なるべく最低限の関わりにとどめておく。必要に迫られたら、関わりを避けている理由を、柔らかな物腰で論理的に説明する。「こういう出来事があって困ってしまったから、申し訳ないけれど私は遠慮するね」といった具合に伝えてみるのも良いかもしれません。
ただし、伝えるときは論理的であることがとても大切です。もしこじれてしまったとしても、第三者を交えた話し合いで理解を得やすくしておく必要があるからです。
2:きっかけとなる出来事がないのに、「なんか苦手…」という場合
→心の中の“別の誰か”、“別の何か”のイメージを相手に投げかけてしまっているかもしれません。これを心理学では「投影」と言います。投影は行き過ぎると、現実を歪めてしまう可能性をも含んでいます。
例えば、他の人たちは円満にやっているのに、自分はどうしても上司と上手くいかない。これといって怒られたことはないのに、いつも怯えてしまう。
こういう場合、過去にひどいトラウマを植え付けてきた人物のイメージがその上司に投影されているかもしれません。
すると、ひどく萎縮しているあなたに対して上司もどう接していいか分からなくなってしまったり、怯えるあまり失敗して実際に怒られてしまったりするかもしれません。本当はお互い、そんなこと望んでいないのに…切ない結果ですね。
どんなところが苦手なのか明確でないなら、「何かを、誰かを投影しているに過ぎないのかも」ということを頭の片隅において接してみると良いでしょう。“その人自身”が見えてきて、何にも色づけられていない新たな関係がスタートするかもしれません。
とはいえ、“投影”について考えるときに過去を振り返ったり、掘り下げたりするのはとても怖いし、勇気がいることです。そのお手伝いをするパートナーとして、心理士に相談していただくことも、ぜひ考えてみてくださいね。
【質問3】心の不安を払しょくするにはどうしたらいいの?
不安を無視しないことと、不安を構成している要素をよく知ることが大切でしょう。
不安であることを受け止めることから始めると良いと思います。心からのメッセージとして大切に扱ってあげてください。
「今、自分は不安なんだな」と受け入れることができたら、その不安の詳細を見てみましょう。「これから向き合おうとしている相手を知る」イメージです。
先の質問でも書きましたが、つまりは自分の心の中を“分析する”ということですね。「この事柄のどんな要素に不安を感じているの?」と、自分に聞いてみましょう。
対人関係が不安?結果を残せるかが不安?どう思われているかが不安?…などなど。紙に書き出して可視化すると良いと思います。また、不安の要素はそれぞれ複雑に絡み合っているので、矢印などを使って関係性を示してもいいかもしれませんね。
こうして心の不安の情報を手に入れたら、どうやって対処していけば良いか作戦を立てる段階に入れます。誰かの知恵を借りるのも良いでしょう。
不安の要素がたくさんある場合は、全ての作戦を一気に実行しなくて大丈夫。既に述べたように、様々な不安は複雑に絡み合っているので、どんな作戦であっても決して小さいなんてことはありません。取り組みやすい作戦から始めましょう。
【質問4】メンタルを強くする方法はある?
強いメンタルとはどんなものでしょうか。
心理士として思うことは、決して折れない鋼のような心よりもむしろ、柔らかで情報をよく吸収する心の在り方が大切ではないかということです。
いくら鋼のように強くても、形が変えられなかったら身動きが取りにくくなってしまいます。
日常生活においては、ストレスを感じる状況や人とも上手くやっていかなければならない場面も少なくありません。そういう時、がっしりとし過ぎているメンタルよりも柔らかなメンタルの方が適応しやすいでしょう。
では柔らかなメンタルを持つためにはどうしたら良いでしょうか。
まずは、自分の心に耳を傾けること。自分の本当の欲求は何かを知ることです。
その上で、状況や相手にどんなことが起こっているのか想像すること。
この時ポイントとなるのは、「自分の心→状況・相手」という順番で考えることです。まずは自分に思いやりを向けないと、状況や相手に対して広い視野で考える余地は生まれないからです。
自分にとって譲れない部分、状況に応じて変えられる部分を見つけながら、ストレスを感じる状況や人との折り合いを見つけていく。メンタルは“強くある”というよりも、“しなやかである”ことが大切かもしれません。
臨床心理士 Haru